日本のすばらしい建築物

日本に現存するすばらしい建築物を紹介するブログ

田園調布の家(大川邸)

こんにちは、ニュースレター作成代行センターの木曽です。

 

今回のすばらしい建築物は、田園調布の家(大川邸)です。

 

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田園調布といえば、高級住宅街ですがルーツは、渋沢栄一によって設立された「田園都市株式会社」が開発した郊外住宅地のひとつです。

 

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 田園都市株式会社を創設した渋沢栄一。:Wikipediaより

 

田園都市株式会社は、洗足、大岡山、調布村(現在の田園調布)の土地を買収し、それぞれ洗足田園都市、大岡山、多摩川台住宅地の造成に入り、1922年(大正11年)6月には洗足地区の土地が分譲されました。

 

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田園都市株式会社本社 (現在の東京都目黒区洗足二丁目25番):Wikipediaより

 

これは、渋沢栄一が近代都市計画の祖とよばれるイギリス人エベネザー・ハワードの田園都市論に影響されて作った会社です。

 

田園都市論とは、簡単にいうと田園と都市を融合しようというものです。

 

その内容は、都市の自律を目指したもので、都市のような多数の雇用を持ち高賃金で魅力的な部分と、田園、いわゆる農業地域の土地が広く低家賃・低土地代で自然と共生した部分を、融合した形にしようといった考え方になっています。

 

具体的には、中心地に公共施設や教会、学校や広場などを配置し、外に向かうにつれ、広大な敷地をもち豊富な緑に囲まれた住宅地、工場、農地(仮想グリーンベルト)と続くものです。

 

ただし、渋沢栄一の洗足田園都市開発は、あくまで「大都市付属の住宅地」、「一時間以内に都会の中心地に到達し得べき交通機関を有すること」となっています。

 

田園都市内に必ずしも勤務先も包含するものではなく、自給自足都市を敢えて指向していないことろに、ハワードの思想を独自に発展させて、現実化した様がうかがえます。

 

関東大震災が起った翌月の大正12年(1923年)10月に分譲が開始されました。

 

田園調布の家(大川邸)は、大正14(1925)に現在の東京都大田区田園調布に建てられた住宅です。

 

田園調布というと、現在は超高級住宅街ですが、開発当初は中堅層のサラリーマン向けに分譲された土地でした。

 

なので、このような一見すると質素な邸宅が数多く建てられたようです。

 

鉄道省の土木技師であった大川栄氏が建造したもので、創建当時は夫婦と子供2人、お手伝いさんの合計5人が住んでいました。

 

所有者が数回変わりましたが、平成5年まで使われていました。

 

現在は、東京都小金井市の「江戸東京たてもの園」に移設されています。

 

「居間中心型」という、居間を中心として、その周りに食堂・寝室・書斎が配置された、特徴のある配置になっています。

 

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家の全景として生活様式は椅子式で考えられており、創建当時は全室洋間でした。

 

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ドイツ下見張り、さんの多いガラス窓など外観も洋風です。

 

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リビングは、コーナーの部分が出窓形式でベンチになっています。

 

履き物を脱いで床に座る床座と、板間に椅子や寝台を置いて履き物を履いたまま生活する椅子座があります。

 

この家は、大正時代の生活改善運動で理想とされた「椅子座」で考えられています。

 

日本ではどんなに生活が洋風化して、椅子を使うようになっても履物を脱ぐ生活は変わらないため、本来の椅子座とはちょっと違います。

 

この家でも、寝室は1年後、畳敷きにしています。

  

浴室は、タイル張りになっています。

 

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トイレは家の西側の玄関脇にあり、長さ1.5間。

 

洗面台、男子小用、和式便器が配置。和式はハイタンク式の水洗でしたが、創建当時から水洗化していたかどうかは不明です。

 

家の設計は洋式ですが、トイレは間取りから考えて当初から和式でしょう。

 

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入り口に洗面台、中に男子小用、奥に和式。

 

台所は、左からオーブン、流し台の配置。

 

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流し台の右下には小さい冷蔵庫が収まっています。

 

上下二段に別れ、上段に氷を入れ、下段に食べ物を入れると、冷気が下に降りて食べ物を冷やす。

 

ガラス戸の向こうは食堂。食堂の向こうは台所で、ガラスの入ったハッチから料理や皿を受け渡しするようになっています。

 

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この邸宅の設計を担当した建築家・三井道男のアイディアで、建材は米国からの直輸入です。

 

当時としては珍しいツーバイフォー工法で、この邸宅は建てられたそうです。

 

同時代の洋風邸宅に比べライトな感じがするのは、シンプルなデザインも勿論ですが、そのような工法や建材のせいもあるのでしょう。

 

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