こんにちは、ニュースレター作成代行センターの木曽です。
今回のすばらしい建築物は、「オランダ王国大使館公邸」です。
駐日オランダ王国大使館は、明治16年から公使館として東京タワーのお膝元、港区芝公園の近くに位置します。
敷地内にはオランダが誇るチューリップをはじめ、日本の気候にあわせた花々を植えた庭があり、四季折々の表情を見せています。
現在の大使公邸は、関東大震災で前身の木造の公館が消失したため、新たに立て直したもので、1928年に施工しました。
1921年頃のオランダ王国大使公邸(当時は和蘭公使館)
鉄筋コンクリート造り、2階建て、銅板葺き。設計はジェームズ・マクドナルド・ガーディナー(1857ー1925)です。
ガーディナーは、外交官の家(旧内田家住宅)でも紹介しましたので、割愛します。
外壁は、白色系のドイツ壁で、これは塗りの仕上げをわざと荒らして凹凸をつけたものです。
この白系の地色に対し、鎧戸、玄関扉やキャノピーは濃緑に塗り分けられ、2色の対比がさわやかな印象を与えます。
キャノピー(ひさし)
正面は中央部のみをやや前面に張り出し、両翼には矩形の窓が並ぶ。窓枠は装飾なしの簡素なデザインだが、玄関ポーチ両脇に設けられたベイウィンドウがアクセントとなっています。
一方、庭から見る建物は、側面、背面ともに、両脇をやや突出させ、ベランダの表現を買えるなど、左右対称ながら変化のある外観をつくりだしています。
建物側面からの外観
1階はトスカナ式柱で、2階はイオニア式柱のあいだに建具を入れ対比させている。
内部のホール右手の階段室はこの建物の見所の一つで、まずはオランダの国章などがデザインされたステンドグラスが目に入ります。
見上げれば3層吹き抜けの廻り階段になっており、曲線を描きながら上がっていく階段の躍動感とあいまって、上昇感あふれる構成となっています。
この建物の3階は屋根裏部屋なので、一般的には2階の主要室へと至る階段と同等のものを3階まで設ける必要はありません。
これは明らかに空間構成上の技法として、3階吹き抜けの階段室としたものです。
ホールに戻って奥に進むと、食堂と大サロンに出ます。
食堂の壁は、当初は腰高の羽目板張りをワニスで褐色に仕上げていたが、現在は白く塗り替えられて明るい部屋になっています。
唯一、イオニア式の柱を両脇に備え、上部に鏡を設け枠飾りを施した暖炉が当時の重厚さを残しています。
大サロンは、最も装飾的な部屋で、床の寄木以外はすべて白のプラスターで仕上げています。壁の上部に花綱飾りをめぐらすなど華麗な装飾が目を引きます。
大サロンから続くベランダは、独立柱を両脇に1本ずつ、中央に3本ずつ立て、3本を鍵型に配して、2階の床を支えています。
床は玄関と同様の白黒の市松模様で、ベランダ周囲は手すりつきの高欄をまわし、くつろぎの場所となっています。
階段を上がって2階のホールに出ると、右手に大使館夫妻の部屋、左手に客用の寝室が並びます。
2階角質は、明るく清潔な内装ですが、暖炉を備えて格式を高めています。
1階のベランダの上部にあたる2階のサンルームも心地よい場所です。
天井は板張りで、くつろいだ雰囲気が漂い、明るい日差しが差し込むなか、大使もここでの読書を楽しみにしているといいます。
オランダ王国大使公邸は、左右対称を基本とした端正な古典的デザインでまとめつつ、ベランダを背側面に配して、それぞれ表情を変えるなど、よくこなれた意匠をもちます。
室内は、近年白く塗り替えられたので各室とも明るいが、暖炉まわりなどは格調高い。
各室とも抑制の効いたさりげない意匠上の演出が魅力的です。
冒頭にふれた庭園は、建物まわりは青々とした芝生ですが、その周囲は回遊式の和風庭園といった趣で、その境界にオランダの植物を配して特徴のある庭となっています。
周辺を高層ビルに囲まれながらも、都心の一等地に貴重な緑を提供する希少な場所でもあります。
実は、ここは実際に居住しています。
本物の洋館の住みこなしの極意を、よく手入れされた庭とともども味わいたいものです。