日本のすばらしい建築物

日本に現存するすばらしい建築物を紹介するブログ

山手111番館(旧ラフィン邸)

こんにちは、ニュースレター作成代行センターの木曽です。

 

今回のすばらしい建築物は、「山手111番館(旧ラフィン邸)」です。

 

横浜市の「港の見える丘公園」の南端、バラ園を抜けると白い壁に赤の屋根のスパニッシュスタイルの洋館が、山手111番館(旧ラフィン館)です。

 

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港の見える丘公園は、バラの香でいっぱいで、色鮮やかに彩られます。


この山手111番館は、平成11年に公園が再整備された際にオープンしました。

 

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設計は、ジェイ・ハーバート・モーガンです。


モーガンは、アメリカニューヨーク州バッファローの生まれで、大正9年に日本フラー建築株式会社の設計技師長として来日しました。

 

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この、日本フラー建築株式会社とは、1920年(大正9年)に設立され、1925年(大正14年)に解散した建設会社です。


三菱合資会社・日本郵船会社・日本石油会社の3社が、日本での大規模建築を計画し、その施工を、当時多数の鉄骨構造による高層建築の実績があったアメリカのフラー会社に発注しようとしました。


その当時の各社の思惑より、上記の三菱合資会社とフラー会社が日本において合弁会社を設立しました。

 

日本フラー建築株式会社の代表的な建物

 

1922年(大正11年)には日本石油会社有楽館とクレセントビル

 

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日本石油会社有楽館

 

 1923年(大正12年)には日本郵船会社郵船ビルディングと三菱合資会社丸ノ内ビルヂングの建築などがあります。

 

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 (旧)丸の内ビルヂング

 

モーガン自身は、日本郵船会社郵船ビルディングや東京丸の内にあった丸の内ビルディングの施工に携わりましたが、大正11年にはフラー社を退社し、日本郵船ビル内に自身の事務所を開設しました。


昭和3年には自ら設計したユニオンビルディングの2階に事務所を構え、横浜の外国人相手に本格的な設計活動を開始しました。

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ベーリック・ホール:イギリス人貿易商B.R.ベリック氏の邸宅として、昭和5(1930)年にモーガンにより設計。

 

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横浜山手聖公会1931年3代目聖堂(1931年モーガン設計)

 

モーガンの自邸にも触れておきたいと思います。


モーガン自身は日本の文化を愛し、生活様式にも深い関心と認識を持っていました。

 

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着物姿のモーガン

 

 そのためモーガンの自邸は、日本建築の特徴を西洋館に取り入れて創ったもので、建築史的にも文化史的にも価値の高いものでした。

 

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建設当時のモーガン邸

 

しかし、残念なことが起こります。

 

地元住民が中心となって保存活動にあたっていましたが、2007年5月12日に、木造2階建て約280平方メートルがほぼ全焼してしまいました。

 

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  2007/5/12 共同通信より

 

さらに、それから半年後の2008年1月2日に再び出火、残った増築部分と別棟の250平方メートルが全焼しました。

 

悲しいことに、どちらも放火の可能性が高いということでした。


火災に遭うまでは創建時の姿や間取り、ディテールがほぼ完全に残っていたので、モーガンの建築を伝える文化財的価値も大変高い建物だったということです。

 

終生、横浜を愛したモーガンですが、昭和12年に68歳で亡くなりました。


現在も、横浜山手の外国人墓地に眠っていますが、この墓地正門はモーガンが設計しています。

 

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外国人墓地正門

 

山手111番館は、大正15年にアメリカ人両替商ラフィン氏の自邸として現在地に設計されました。


そのため、旧ラフィン邸とも呼ばれています。

 

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山手111番館:正面

 

ラフィン邸は鉄筋コンクリート造りの地下1階、地上は木造2階建てです。


この建物の特徴は、スパニッシュスタイルでまとめられていることで、荒々しいスタッコ仕上げの白壁や、屋根の赤い瓦、入口の半円アーチなどにその特徴があらわれています。

 

ラフィン邸の外観は、正面は左右対称で、1階は玄関ポーチを張り出して3連アーチを見せ、両脇の壁を弓状にやや立ち上げています。

 

正面の玄関ポーチとなっている3連アーチをくぐると、ここは天井がなくパーゴラ(藤棚)で、開放的な空間が広がります。

 

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上部:パーゴラ 

 

建物は傾斜地を利用していることから、正面からみると2階建て、背面から見ると地階部分の外壁があらわれ3階建てに見えます。

 

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裏側から見ると3階建てに見えます

 

玄関を入ると、開放館のある吹き抜けのホールで、見上げれば2階部分に回廊がまわっています。

 

正面には木製のマントルピースにタイル貼りの暖炉があり、その上部は回廊の演台のように張り出しています。

 

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 1階ホール

 

ホールの奥にある食堂は、壁の腰高の羽目板や、太い天井の格縁、さらにホールと背合わせに据えられた暖炉が、重厚で落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

 

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1階食堂

 

2階は残念ながら一般の人は上がれないということでしたが、2階にある寝室の大きな窓から望む海は、きっとすばらしいことでしょう。

 

山手111番館は、比較的こぢんまりとした建物ですが、敷地形状を活かした全体の構成がおもしろく、スパニッシュスタイルを取り上げた正面のアーチの美しさ、吹き抜けのホールの豊かさなど見所があります。大正期のスパニッシュ住宅としても貴重なもののひとつです。

 

薔薇の時期以外でも、展示やイベントが定期的に行われており、様々な楽しみ方ができるので、ぜひ足をお運び頂きたい建物です。

 

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