日本のすばらしい建築物

日本に現存するすばらしい建築物を紹介するブログ

みんなの森ぎふメディアコスモス

 

岐阜県にある複合施設『みんなの森 ぎふメディアコスモス』をご存知でしょうか?


中でも、その施設の図書館が、話題となっています。

 

それが『みんなの森 ぎふメディアコスモス』にある「岐阜市立中央図書館」です。


この図書館のコンセプトは、本の貸し借りするだけではなく、つい時間を忘れてしまうような「滞在型図書館」です。


近年、こういった滞在型図書館という建物が増えていますが、このぎふメディアコスモスもそのうちの1つです。

 

他の滞在型図書館(ゆすはら)

 

『みんなの森 ぎふメディアコスモス』は、岐阜県岐阜市にある岐阜市立中央図書館を中核施設とする複合文化施設で、2015年7月18日に開館しました。


「知の拠点」の役割を担う市立中央図書館を始め、「絆の拠点」となる市民活動交流センター、多文化交流プラザ、及び「文化の拠点」となる展示ギャラリーを擁しています。


場所は、JR岐阜駅や名鉄岐阜駅から約2キロメートル北の、岐阜城がそびえる金華山の麓に位置します。


2004年に現在の場所に移転された岐阜大学医学部附属病院跡地の市街地再開発事業として整備されました。


敷地の南側には、市役所や裁判所などの公的機関が集積しています。

 

JR岐阜駅

 

この複合文化施設が作られた背景には、以下のようなことがありました。

 

1958(昭和33)年に開館した岐阜市立図書館の本館は、開館から50年以上が経過していました。


エレベーターがないなどバリアフリーに対応しておらず、閲覧席も少なく、建物の老朽化も深刻でした。


また、図書館の専用駐車場もなく、午前10時から午後6時という開館時間は勤め人にとって利用しにくいという点もありました。

 

以前の岐阜市立図書館

 

1996年時点で、岐阜市には、岐阜市立図書館本館といくつかの図書室がありました。


その中で2002年に、中央公民館分館内にあった加納図書室が移転され、JR岐阜駅東高架下のハートフルスクエアーGに岐阜市立図書館分館が開館されました。

 

2002年度の分館の蔵書数は、約7万冊で、一方、本館は約16万冊の蔵書がありますが、貸し出し数で比較すると、分館の約50万冊に対して、本館では約16万冊と逆転していたのです。


また利用者数は、分館では約18万人に対して、本館は約5万人と、新しく立地のよい分館は、新たな利用者層を掘り起こすことに成功していました。


2002年度の本館の貸し出し冊数は、なんと蔵書数約5万冊の長森図書室をも下回ったそうです。

 

また、2004年の岐阜市立図書館本館の蔵書数は約20万冊であり、同じ岐阜市内にある岐阜県立図書館の約1/5しかありませんでした。


実は、1995年以前から書庫不足の状態が続いており、1年間に8千冊を購入しても7千冊を廃棄せざるをえない状況でした。


運用面でも、分館1館といくつかの図書室があるものの、借りた館でしか図書の返却ができないという難点もありました。


このような状態が続き、全国にある人口20万以上の133自治体の中で、本館の延床面積は122位、蔵書数は123位と、いずれも下位に低迷していました。

 

こうした背景から、岐阜市立中央図書館のリニューアルが計画されるようになったのです。

 

また同時に、岐阜市は公共施設の再集約や中心市街地の活性化などを図る「つかさのまち夢プロジェクト」も計画していました。


プロジェクトの内容は下記のようなものでした。


第1期には、岐阜大学医学部跡地に新図書館の建設


第2期には、新図書館の南側に岐阜市役所新庁舎を建設


第3期には、現行の岐阜市役所本庁舎跡に市民文化ホールを建設する


このプロジェクトの第1期にあたるのが、今回ご紹介している『みんなの森 ぎふメディアコスモス』なのです。

 

設計プロポーザルには全国から70人の応募がありました。


選考委員会が3者に絞り、2011年2月の公開プレゼンテーションで、伊東豊雄建築設計事務所が設計者に選出されました。

 

伊東豊雄

 

伊東豊雄は1941(昭和16)年、日本統治時代の朝鮮京畿道京城府(現在の大韓民国ソウル特別市)に生まれ、2歳頃から中学生までを、祖父と父の郷里である長野県諏訪郡下諏訪町で過ごしました。


その後、東京都立日比谷高等学校、東京大学工学部建築学科を卒業し、菊竹清訓設計事務所勤務を経て、1971(昭和46)年に独立し、アーバンロボット(1979年に伊東豊雄建築設計事務所に改称)を設立しました。


当初は、『White U』や自邸『シルバーハット』など個人住宅を中心に手がけ、安価かつ禁欲的・ミニマルな作風で注目を浴びました。


また、消費社会に暮らし、物だけでなく生活空間まで消費する若い女性ら都市の「遊牧民(ノマド)」をテーマにした「東京遊牧少女の包(パオ)」といったプロジェクトを発表するなど、体を柔らかい膜のように包む建築などを構想し、都市を批評する活動を行いました。

 

シルバーハット

 

1986(昭和61)年には、横浜駅西口にシンボルタワー「風の塔」を作りました。


地下街換気塔も兼ねているこの建物は、無数の穴を開けた金属板とたくさんの照明で構成された半透明な簡素な塔で、夜間は風などの周囲の気象条件に合わせて表面にカラフルな光が浮かび上がるようプログラミングされています。


金属板の斬新な使用方法や、環境に対する相互作用性で注目を浴びました。

 

1990年代に入ると、『せんだいメディアテーク』を代表とした、構造上でも実験的、なおかつ官能的な外観・内部空間を有する作風に移っていきました。


新建築誌上で槇文彦から「平和な時代の野武士たち」と呼ばれた世代の筆頭でもあります。

 

風の塔

 

せんだいメディアテーク

 

建築した建物の数もさることながら、一つ一つのプロジェクトが非常に大きいものが多いです。


また日本国内のみならず、海外でも様々な建物を建築しています。

 

そんな伊藤豊雄の代表作品の一つとも言われる『みんなの森 ぎふメディアコスモス』。


日本家屋をイメージしたという、木をふんだんに使った癒し空間でもある建物を覗いていきましょう。

 

『みんなの森 ぎふメディアコスモス』の構造は、鉄筋コンクリート構造・鉄骨構造・木造の混構造です。


2階の床面までは鉄筋コンクリート造、2階の鉄骨マリオン柱と外周のT型柱で、木造屋根を支持しています。

 

壁面は、鉄筋コンクリート耐震壁と鋼板耐震壁を併用しています。


建物は東西90メートル・南北80メートル、地下1階・地上2階建であり、高さは16.09メートルです。


ワンフロアが80メートル×90メートルという広さにもかかわらず、2階は壁のないワンルームとなっています。

 

近くに長良川がり、地下水が豊富なため、伏流水を使用した輻射冷暖房を採用しています。


地下水のほか、太陽光や太陽熱をエネルギー源として利用しており、1990年の同規模建物に比べて消費エネルギーを半分に抑えている、かなりエコな建物といえます。

 

外観の特徴としては、金華山から続く山並みを想起させる、波打つような木造屋根が特徴です。


屋根は建物とほぼ同じ大きさで、幅12センチ、長さ12メートル、厚さ2センチの細長いヒノキ板を正三角形に見えるように組んで造ってあります。


屋根にはマウンドと呼ばれる13か所の突起部があり、その高さは最大4メートルにもなります。

 

マウンドの影響で屋根は緩やかにうねっていますが、これほど大きな規模のうねりのある屋根を木材で造るのは世界初だそうです。


うねりの関係で、板と板の交点は直線状に並ばず微妙に曲がるため、現場で実物大模型を作成して課題を解決し、2万3千か所の座標を正確に計算し、数値をはじき出して施工を進めました。


全国から160人の造作大工が参加しており、建設途中には建築関係者の視察が相次いでいます。

 

やはり、世界初の試みとなるものには視察が多くくるようです。

 

ヒノキ板は岐阜県産の東濃ひのきを使用しており、地産地消の観点も、この建築に大きな意味を持たせています。


1階の天井はヒノキ集成材のルーバー天井としており、ダクトや配管を見せる構造となっています。

 

外観

 

外観

 

建物内部に入ってみると、2階のヒノキ板による天井から、直径8メートルから直径14メートルまで、4種類の大きさの布製天蓋がつり下がっているのが目に飛び込んできます。


「グローブ(傘)」と呼ばれるこの半透明の天蓋は、ベルマウスのような、逆さまの漏斗のような形状をしています。


グローブにはすべて異なる透かし模様が施されており、表面パターンは日本デザインセンターと安東陽子デザインが共同で検討したそうです。

 

グローブは、オブジェ的な役割だけでなく、中央部に設けられた可動式の換気口で自然換気を行うという重要な役割を持っています。


ベルマウス形状にすることで、換気量を倍増させており、春や秋の気候条件の良い日は、ほぼ自然換気のみの空調となります。


また採光の役目も有しており、半透明の天蓋が光を透過・反射・拡散させることで、自然光を取り入れた明るい空間を演出しています。

 

内観

 

内観

 

ぎふメディアコスモスは準防火地域にあり、また延床面積は1,500平方メートルを超えるため、建築基準法において耐火建築物とすることが求められました。


グローブは難燃性のポリエステル素材でできており、グローブ本体に着炎したとしても自己消火能力を持っています。

 

書架はグローブを中心に弧を描いて配置されており、その背板と床板は延焼防止効果を持つプレキャストコンクリート造りとなっています。


すべての書架はグループ化されており、たとえ書籍が燃えても他のグループの書架には燃え移らない仕組みとなっています。

 

1階には防炎加工したカーテンが引かれており、2階の窓には不燃加工した和紙製のプリーツスクリーンが用いられています。


また、書架も含めた全ての家具デザインを藤江和子アトリエが担当したそうです。

 

内観

 

安東陽子

 

藤江和子

 

屋外空間で、ランドスケープデザイン(都市における広場や公園などの公共空間のデザイン)を主に担当したのは、ランドスケープデザイナーの石川幹子です。


敷地内には金華橋通りに沿って、幅30メートル・長さ240メートルの遊歩道「せせらぎの並木 テニテオ」が設けられました。

 

石川幹子

 

「せせらぎの並木 テニテオ」は、6列の並木から構成されています。


内側の4列にはカツラが、金華橋通り側の1列にはシラカシやヤマモモなどの常緑樹が、もう一方の施設側の1列にはシデコブシやヒトツバタゴなどの落葉樹が用いられています。


金華橋通りから1列目と2列目の並木の間には小川が設けられ、2列目と3列目の間には小径も設けられています。


遊歩道中央部には、幅員8メートルの歩道が設けられており、朝市などのイベント開催を想定した幅員になっています。


遊歩道の一部は施設開業前の2013年12月に先行オープンしており、2014年12月にはイルミネーションが行われました。

 

施設の前庭となる部分は、市民広場「みんなの広場 カオカオ」があります。


様々な用途に使用でき、2か所に霧の泉(ミスト)が設けられていて、イベントのない時には清涼感や水に親しむことができます。


「せせらぎの並木 テニテオ」と一体的に活用し、大規模なイベントを開催することもできるようになっています。


遊歩道と広場を合わせると約1.3ヘクタールとなり、開放感あふれる空間です。


また、敷地の北側は住宅地に近いため、四季によって変化が生じる樹木を植えています。

 

屋外

 

屋外

 

テラス

 

図書館の延床面積は、旧館の2千平方メートルから4.7倍の9千4百平方メートルになり、蔵書冊数は、旧館の20万冊から4.5倍の90万冊に増えました。


開館から1か月時点で、新図書館の1日あたり貸し出し冊数は4,400冊に上りました。


旧館時代の2014年度の貸し出し冊数は1日あたり580冊だったので、新館の貸し出し冊数は旧館の7.5倍になりました。


また、1か月間のホールなどを含めた施設全体の入場者は約167,000人で、1日平均は5,300人に達しています。


開館から1か月半で、図書館の新規登録者数は1万人を越えました。

 

建築物としても見どころが盛りだくさんで、地域の活性化にもつながっている『みんなの森 ぎふメディアコスモス』。


なんと「図書館」なので、来館は無料です。

 

一度訪れて、館内の設備を見つつ、のんびり本を読んでみるのもよいかもしれませんね。