日本のすばらしい建築物

日本に現存するすばらしい建築物を紹介するブログ

エリスマン邸

エリスマン邸は横浜・元町公園の敷地内、山本本通りに面して建っています。

 

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通りに沿って隣りにはベーリック・ホールが位置するなど、山手の洋館群の一画にあり、公園の緑の木立に囲まれて建っています。 f:id:sumai01:20140904090958j:plain

 

ところが、これは近年の移築によるもので、もともとは山手127番地にエリスマンの私邸として建てられたものです。

 

貿易商フリッツ・エリスマン(1867―1940)はスイス、チューリッヒの生まれです。

 

明治21年に来日し、戦前最大といわれる生糸貿易商シーベル・ヘグナー商会の横浜支配人として活躍しました。

 

昭和15年に亡くなるまで日本に滞在し、居間でも横浜山手の外国人墓地に眠っています。


その後、建物は戦災を免れ、所有者が転々としながらもその姿を保ち続けてきました。

昭和57年にマンション建設のために解体されましたが、その歴史的価値が評価され、横浜市が当時の所有者から部材を譲り受けました。

 

それを平成2年に元町公園内に移築したものが現在のエリスマン邸です。

木造2階建て。当初は和館が併設されていましたが、移築の際には部材が残っておらず、復元されませんでした。

 

設計は、アントニン・レーモンドです。

 

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横浜にあるレーモンド作品には、ライジングサン石油の社宅(現フェリス女学院10号館)などがあります。


エリスマン邸設計当時のレーモンドは、師である建築家フランク・ロイド・ライトのもとから独立して間もないころで、細部にはまだライトの影響がみられます。

 

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左:アントニン・レーモンド 右:フランク・ロイド・ライト

 

一方で、その後のレーモンドの作風を感じさせる部分もあるので、移行期の作品といえます。

 

それでも、その簡潔なデザインは、欧米の直輸入のような、横浜に残るほかの洋館群とは少々異なる、モダンな雰囲気を醸し出しています。

 

屋根の勾配を緩くし、1、2階のあいだに見切りの庇をまわし、軒先を張り出すなど、異人館的要素を持ちながらも軒の水平線の強調するあたりなど、ライト影響を見ることができます。


しかし、全体としてはアメリカの郊外住宅の一形式であるシングル(板張り)スタイルをねらったものと思われます。

 

ただし、日本のシングルスタイルは下見板張りのものが多いですが、ここでは1階を縦板張り、2階をドイツ下見張りにして変化をつけています。

 

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最大の特徴は、全体のボリューム構成で、屋根は寄棟を雁行状に配置し、2階の2面にバルコニーを設けて壁面を後退させるなど、全体に凸凹をつけているので、単純な直方体にはなっていません。

 

さらに、鎧戸、上げ下げ窓、バルコニーといった従来の洋館のデザイン要素を用いながら、開口を大きくとり、窓には大ガラスを入れて桟で区切らないから明るい、モダンな意匠に仕上げられています。

 

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1階には暖炉のある応接室、居間兼食堂、庭を眺めるサンルームなどがあり、簡潔なデザインを再現しています。

 

内装は各室ともほぼ共通し、腰高の板壁に、天井との境に見切がまわされるだけのあっさりしたものです。

 

また、居間兼食堂や応接室に置かれた幾何学的なデザインの椅子や、六角形のデーブルなどは、レーモンドがほかの家のために設計したものを復元しました。

 

これらの家具の意匠はライト風です。

 

デザイン上目を引くのは応接室の暖炉で、上部両脇に多角形に切り込んだ特異な装飾が施され、大谷石を加工したシンプルなマントルピースとは対照的です。

 

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このアール・デコにも通じるモダンなデザインには、師であるライトの作風をのがれ、独自のデザインを追い求めたレーモンドの気負いが感じられます。


庭に面してあるサンルームは、開口を大きくとり、窓辺には藤製のデッキチェアが置かれています。室内には明るい光が充満して誠に心地が良いです。

 

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階段室は建物の見所の一つで、手すりの水平線と壁のジグザグ線といった幾何学で構成された大胆なデザインが、アール・デコをほうふつさせます。

 

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主に寝室として使用されていた2階の各室の内装は1階とほぼ同様、幅木に布張りの壁、天井とのあいだに見切りをまわしただけのごくシンプルなものです。

 

なお、2階はやたら低い位置に窓がありますが、これは上げ下げ窓を上部の壁に収めて開口部を大きくとるための工夫です。

 

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2階の寝室(現在は洋館の資料展示室)

 

レーモンドはこののち、世界的にも最先端の鉄筋コンクリート打ち放しの自邸を建て、ル・コルビュジエばりのダイナミックなモダニズム空間を自らの木造のアトリエで実現するなど、独自のモダニズムを切り開き、やがて日本の近現代建築が世界へと開いていく契機をつくりました。

 

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ここエリスマン邸では、そんなレーモンドがライトの影響下にありながらも、新しいデザインを模索していたさまをよく見てとることができます。